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「ちーちゃんは悠久の向こう」   ☆×10   新風舎文庫


 
 第4回『新風舎文庫大賞』受賞作。
 
 幽霊、怪奇などの、オカルト――非日常――好きの隣人、ちーちゃんに振り回される主人公。
 ある日、学校の7不思議を調査するちーちゃんは、非日常を求めるあまり――!

 そんな話。
 

 
 数々の新人賞を同時受賞した、世間で言われるところの天才、日日日氏待望のデビュー作。

 天才。そう、文章力にかけてはもはや一流。高校生とは思えない表現力で余すことなく読ませてくれます。 盛り上がりのシーンなどは臨場感抜群で、気づけば何十ページも読み進めてしまっているほどです。 恐ろしいまでの文章力。淡々としているがどこか閑散としている一人称に、映像が淀みなく頭に浮かぶような 文章。『読ませる力』に関しては新人賞などとって当然だと言えるでしょう。
 展開、キャラはまだそこそこ。ラストシーンには驚きと賞賛――センス――を感じましたが、これからといったところ。 展開もまだ独自というほどでもなく、キャラはそこまでとびぬけているわけでもない(とびぬけていないといけないというわけではないのですが、 この作品では中途半端さが目立った)し、発展途上という印象を受けます。
 
 これは、いうところの『セカイ系』というものなのでしょうか。
 主人公であるモンちゃんはどこまでも周りが見えていないし、自分で完結してしまっている。その原因も 彼の特殊な家庭環境にあるわけだけれども、それでも彼は盲目過ぎる。 でもそこがまた、脆く儚い彼らの『日常』を強調しているような気がします。
 日常と非日常は表裏一体どころか、並列、いや、重複で。互いが気づかないだけで、とても近いところにある……。 それがまた、非日常に惹かれるちーちゃんと、それを見続ける久野悠斗であるところのモンちゃん の危うい、しかしバランスを保った関係を表しているのかもしれません。

 このまま日日日が、展開のもっていき方、キャラ作りなどで更なるレベルアップを見せたのなら、 僕は迷うことなく☆10の上を創らなくてはいけなくなるでしょう。そうなることを願います。
 
 ところで、端々から『戯言シリーズ』を意識したような表現が見受けられるのですがこれいかに。
 ……気のせいかもしれませんがね。




「私の優しくない先輩」   ☆×7   碧天舎


 
 第4回『新風舎文庫大賞』受賞作。
 
 体が弱く、病弱なため自然に囲まれた島――火蜥蜴島で暮らしていた西表耶麻子。
 彼女には恋焦がれる人がいて……。
 しかしそんな『彼』の意外な一面を知った耶麻子は……。
 

 そんな話。
 
 
 ちーちゃんに感じた、神がかり的な文章力は、それほどまでに感じられませんでした。
 
 展開も、急ぎすぎている感が否めず、のめり込む前に終わられてしまったという印象です。
 もう少しキャラを描いて欲しかった。
 全体的に、薄くまとまってしまっている作品。
 ただそれでもやはり、ラストのハッピーエンドには胸打たれるものがありました。 歪曲していて、屈折していて、わけのわからない気持ちもちゃんと伝わってきました。
 ただ、愛冶君の役回りは結局なんだったのかというと、なんなのでしょう。 いなくちゃ話は始まらないし、けれども特に必要性は感じない。 重要なキャラなのに登場は少なく、影も薄い。
 愛冶君への気持ちから、様々なことを考えていく耶麻子の描写は、いいと思うのですが、もう少し愛冶くんにも 触れてやって欲しい気がします。まあそんなことを描くより前にまず本編をもう少し厚くしてほしいところですが。

 走り抜けすぎて、付いていくのに必死になっているうちに終わっていた。
 でも最後は良い。
 そんな作品でした。
 
 もしこれが無名作家の作品だとするなら、続きは買わないでしょうが。
 雑にまとまりすぎているのは否定できません。
 

「蟲と眼球とテディベア」   ☆×7  MF文庫J

 宇佐川鈴音には、愛する人がいた。完全、完璧。全てが揃った人間、賢木愚龍。
 だが、二人の愛は一筋縄には進めない。

 現れたのはスプーンを持った眼球抉子と名乗る少女だった――


 やばい。油断すると9くらいの評価を付けてしまいそうになる。そういうわけにもいかないのですが。
 まず、構成。結局グリコ中心ののキャラ小説となっている。シリアス展開と設定が活かしきれていない。
挙げれば欠点は限りない。だが、それでも一気に読ませるものを持っている。

 個人的にはグリコのキャラと、読後感の良さが気に入った。

 だけど、やっぱり、まだいける。もったいないと思う。
 シリーズとして続刊が出るのなら、今回以上のものを期待してしまう。

 いやはや、日日日はもう本当にちゃんとしたプロですね。見劣りしないどころか他より褒めがいがあります。
 

「蟲と眼球と殺菌消毒」   ☆×4  MF文庫J

 「蟲と眼球とテディベア」の続刊。なんだか続きってものを意識していなかったのだろうと容易にわかる内容で、 どうにもこうにも急ごしらえという印象は拭えず、それでいて浅い内容。
 好きな人は好きなのかもしれないけど、自分にはあまり肌に合わない方向へと進みつつあるようです。
 

「狂乱家族日記 壱さつめ」   ☆×8  ファミ通文庫

 凰火が強制的に妻にすることになった猫耳少女。食い逃げはするわ口は悪いわで騒乱な物語。

 なんと言うか、ちゃんとギャグとしても楽しめる。だけど、メインの話になってる苛めの話。あれは、なんなんだ。
 ギャグの雰囲気を壊しているわけじゃないんだけど、コメディー調味の話でああいうことされても燃えないし醒める。
 ただ、おちゃらけた感じでちゃんとそれぞれの家族を描けているのはいいと思う。
 どうして日日日の本はこう勢いに任せた感じなのだろう。またそれがいいところでもあるのだけれど。


「狂乱家族日記 弐さつめ」   ☆×7  ファミ通文庫

 最近それなりに数読んで目が肥えたのかなんなのか、面白いと感じる水準がかなりあがりました。その所為かこれもまぁ、そこそこ楽しめるかな程度にしか思えませんでした。
 もう少し捻れというのはまあ年齢的に厳しいのでしょうけれど、作者の年齢で差別するわけにもいかない。でもまあ、そこらのライトノベルとは一線を隔して良作となっていることは確かです。
 気楽に楽しめると思います。


「狂乱家族日記 参さつめ」   ☆×8  ファミ通文庫

 やっと物語が動き始めました。全容が見え始め、謎のままにするのかと思っていた凶華の正体にまで及びます。
 やはり良くわかっているというか、日日日は巧いです。ギャグと重い雰囲気。1巻でのお互いをだめにし合う感じではなくて、今度は調和が取れていて面白かったです。
 ここからギャグを面白くしていくのか、本編に突っ込んでいくのか。ただ、思うのは、「狂乱家族」はもう止まりません。
 

「アンダカの怪造学」   ☆×8  角川スニーカー文庫

 設定からなにから、特に目新しいところはないけれど。キャラが生きている。狙った感が強すぎるのはマイナスなんだけれど、それでもキャラが良い。
 ドラマの部分とか、感動的を入れたラストとかに日日日の魅力なんてない。それまでの過程が巧い。だからこそなんでもないラストが引き立てられて読後感も良いのだと思う。





「アンダカの怪造学U」   ☆×8  角川スニーカー文庫

 ラストへの伏線張りに終始目がいってしまい、あまり物語りに集中できませんでしたが、それでもやっぱり日日日。
 キャラ作りと文章力だけで世を渡る作家だけはあって、新キャラも旧キャラも見ていて面白い。それを引き立てるのが彼の文章なのです。
 


「うそつき」   ☆×6  新風舎文庫

 日日日の恋愛観を書いたのらしいですけれど、どうにもこうにも、自己満足が過ぎるというか、主人公の思考には抵抗は無いがそれを書いた日日日に嫌悪を覚えた。 恋愛を語るなんて自分にはできないが、日日日の書く恋愛模様はどうにも「異端、変、特別」と言ってほしがっているようにしか見えない。
 個人的な感情を抜きにして読書をできるほど聡い人間ではないので、少なかれ否定的に語ってしまうけれど、嫌悪を感じながらも楽しめたのも事実。 ただ、楽しめたと言ってもしょせんは文章表現の巧みさに感嘆したり、相変わらずのキャラ作り、キャラの位置付けに成長を感じたりしただけで、物語自体や思想、思考には何も感じなかった。
 展開は見え見えの伏線をばら撒いたかと思えば丁寧に回収していくことの繰り返しであったように思う。意図してやっているのかは定かではないが、終盤の畳みかけなどほとんどの読者が展開を予想できると思う。
 個人的には残念な作品でしたが、物語の展開以外の部分で話が楽しめる、日日日について語りたい、恋愛観に興味があるという人はそこそこ楽しめるのではないかと思います。
 





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