トップへ戻る
評へ戻る
「陽気なギャングが地球を回す」 ☆×10 祥伝社文庫
緻密、無駄がない。そして爽快。もう最高ですよ。
行き当たりばったりというか、結構ドタバタ系のテンションを楽しむ話なのかなーと序盤を読んでたら、そんなことはまったく微塵もこれっぽっちもありえなく、「あー、やられたー!」の連続。他人の読書時における展開読み能力の平均を10とすれば、僕は5くらい。今読んでいる、その部分を足りない脳みそフル回転で楽しむのが僕の読書なので、こういう話は大好き。
そういう僕でもラストの展開は途中で「あ、なるほどなるほど」と気づいたわけですが、それもおそらく作者の意図通りなのでしょう。てかあれで気づかないほうがおかしいですし。
「ラッシュライフ」 ☆×9 新潮文庫
最初はわからないんです。判らないながらもどんどん惹きつけられていって、どの人物にも感情移入したところで点が線になる。
そのタイミングが絶妙で、こういう手法に初めて遭遇したのも相まって、凄いなぁ、と感嘆するばかりでした。
最後までが若干退屈なのですが、それでも読んでほしい作品です。
「グラスホッパー」 ☆×8 角川書店
なんだか不思議な読中の空気と読後感をあたえてくれる作品でした。
3人の主人公が少しづつ近づいていく場面なんかはどうなることかとはらはらしましたし、展開も読めないもので、楽しませてくれました。
「重力ピエロ」 ☆×9 新潮社
この人の作品は全部読んでから全部読み返したいですね。あちらこちらで作品間の繋がりをみつけた時はなんだか幸せです。
謎解きの部分は、遺伝子のところを読んでからは読者に丁寧に先を読ませて、それを見事になぞりつつも会話や表現で楽しませてくれます。独特の、思わずにやりとしてしまうような描写や、ユニークな登場人物。実に良いです。
同作者「ラッシュライフ」を読んでから読むのをお勧めします。
「アヒルと鴨のコインロッカー」 ☆×9 東京創元社
「うーん……なるほど」と唸ってしまうようなトリックに、この人の作品すべてに共通する、魅力的というか、読んでいて楽しくなるような登場人物。先行きが不安で、張り詰めた緊張感を時折ふっと和らげて笑わせてくれるのも飽きないところ。登場人物が活き活きとしているから、最初から最後まで通してずっと楽しめるのがいいですね。どんどん先が読みたくなるという、純粋な気持ちで読み進めることができました。
「魔王」 ☆×7 講談社
死神の精度より後に読むとほくそ笑むことができるでしょう。それほど特殊なわけでもないけど、安心して読める面白さ。視点の切り替わりにも自然についていけるし、読後感も良かった。
「死神の精度」 ☆×8 文藝春秋
さくさくと読めるのに深い。テンポよく、軽妙に交わされる会話とどこか人間臭くてでも人間離れしている死神の人柄がいい感じで、のめりこんでしまう。ひとつひとつじっくりと読んでいるのにあっという間に読み終わったような気がしました。
「オーデュボンの祈り」 ☆×10 新潮文庫
正直な話「陽気なギャングが地球を回す」に10点を付けたのを後悔するくらい良かったです。
一つの美しい物語があって、それを少しづつ千切って散りばめて貼り絵にしたような、そういう感じでした。段々と、貼り絵に使った色紙をパズルのように組み合わせていって、一枚の綺麗な色紙の形に戻すような。その行程を読んでいるのはとても楽しかったですし、ピースが嵌まっていくのは爽快でした。そして最終場面、読者の頭の片隅にずっと置かされ続けていたものをくっ付けて、美しい物語が完成したのでした。
「終末のフール」 ☆×9 集英社
世界の終末の約三年前の人々の生活を短編形式で描いているのですが、ほんと面白い。
絶妙な後味を残すタイミングでの終わり方とか、全体的なよさもあるのですが、僕としてはなんと言っても演劇のオールをお勧めします。どうしてもネタバレになってしまうと思うので何もいえませんが、伊坂幸太郎だなあ……と。
どの短編もいい味を出しつつ、それぞれの物語の関連性に、ああ、自分の知らないところで世界は繋がっているんだなあという不思議な幸福感を演出してくれて、やっぱりこの人の作品が僕は大好きだ、と再確認しました。蛇足ですが、「天体のヨール」は苦しいなあ。
「陽気なギャングの日常と襲撃」 ☆×10 祥伝社文庫
普通の小説なら、山場のシーンを読んでいる時に、のめりこんでいって時を忘れることがあるかもしれない。だけれど、この小説ではそういう差異がおきない。どのシーン、どの会話、どの描写を読んでいてもよめりこんでしまう。読み出したらキリのいいところまで止まれない。10点以外考えられない。
トップへ戻る
評へ戻る