トップへ戻る

評へ戻る





「奇跡の表現」   ☆×6   電撃文庫


 
 第11回電撃小説大賞『銀賞』受賞作。
 
 かつて裏組織を束ねていた男、シマは抗争で妻子を惨殺され、自らも瀕死の重傷を負う。サイボーグ化手術で一命を取りとめたシマに残されたのは、癒えぬ心の傷と、後悔と諦めの日々だった。
 少女ナツはかつて親に捨てられ、施設で暮らしているが、頑なに神を信じる態度は、心の傷を隠す仮面にも似ていた。
 心に傷を持った二人が出会う時、少女の心を守るためにシマが見せる「奇蹟の表現」とは──!

 そんなお話。(手元に無かったので電撃文庫公式HPより抜粋)
 

 さて、大賞金賞とあまりいい評価が点けられなかったので、銀賞には非常に期待して読み始めたのですが。
 
 前半部は、盛り上がりに欠けると言えばそれまでですが平坦で、荒廃した雰囲気がよくでていると思います。 絶望して他を拒絶しようとするシマが、かつての娘に似ていて、強情で世間知らずのナツに振り回されることで 希望を、いや、ナツを悲しませないために行動を起こすという望みを得るのは読んでいて好いと思いました。
 しかし、あのラストのこじつけのような締めにげんなり。なるほど綺麗な終わり方だなあと思わせたかったのでしょうが、 どうも強引さが目立ちました。
 因縁の暗殺者との戦闘などはもう少し力を入れて欲しい。戦闘はまだいいとしても、まず暗殺者の自決の要因を あんな適当に描いて欲しくなかった。しっかりと、読者が納得する形で展開を進めて欲しいと思いました。 そこまで作者に要求するのは贅沢と言うものなのでしょうが。
 ただ僕がラストでいいと思ったのは、結局シマは希望に目覚めたわけでもなく、ひと時の平和を得て安堵する街で折り合いをつけて 生きていくことになることです。確かに最後には、シマが希望を取り返すのが読み取れるような終わり方をしていますが、 それでもシマは家族についてなど、気持ちの上で折り合いをつけただけに過ぎないのだと思います。
 続刊がでるのなら、受賞3作の中で1番読みたいと思わされました。
 








トップへ戻る

評へ戻る