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乙一の作品
「暗黒童話」 集英社文庫 ☆×7
事故により目を失い、他人の目を移植したことによってもとの持ち主が
焼き付けた光景が見られるようになった少女。
人を傷つけても殺せない男。
2人の物語は複雑に絡みあう。
全体通して描写が丁寧で、感心させられました。
ただ、少し読ませる力が無かったと思います。後半のサスペンスは演出も上手く、
非常にいいのですが、描写力のみでは前半部の印象が弱かったです。
話の流れが自然で、つくりが丁寧だと思いました。
途中途中にあるグロテスクな描写が苦手だったのでちょっと入り込めない部分もありましたが概ね楽しめました。
「GOTH」 角川書店 ☆×6
共感は持てないけど、面白い。
かなり残酷なシーンとかもある。あるけど、切ない。
乙一としてはかなりの異色作品。
僕の中ではそんなに評価は高くない。
かなり現実的であって、それでいて非現実的。
乙一作品に求めるものによって面白さが変わってくる作品。
ただ単に、オチや騙しなどを期待して読むなら、あまりお勧めしません。
心情描写の透明感や文章の切なさなら十分にあります。
乙一作品としてではなく、ひとつの小説として読んだ方がいいです。
「失踪HORIDAY」 角川スニーカー文庫 ☆×6
短編1話に中編1話収録。
短編は乙一らしくて面白いです。かなり。むしろこれを題にしたほうが……。
中編は、なんかだらだらしてる。長い。終わりも微妙。
気持ち的には星新一の長編みたいな(違うか?)
なので中編の方はあまり期待はしないほうが良いです。
乙一のよさは短編で良く出るのだと勝手に思ってます。
「さみしさの周波数」 角川スニーカー文庫 ☆×9
短編集。中でも『手を握る泥棒の物語』は名作。なにより読後感がいい。さすが。
『未来予報』も結構すき。他も面白かった。
短編集としては1番好き。
それも、乙一のいいところがよく出ている作品ばかりだから。
独特の読後感、文章の綺麗さ、切なさに最後のオチ。
これらが詰まった短編集です。
こんな作品が書けるのは相当の才能の持ち主ですね。
「きみにしか聞こえない」 角川スニーカー文庫 ☆×8
『Calling You』がすごい。切なくて、おちも良い。読後感も良し。
『華歌』も最後にやられた。見事にひっかけられてた。まあおち以外はそうでもなかったけど。
「失はれる物語」 角川書店 ☆×7
『マリアの指』以外は既に他の本に掲載されたもの。
しかし、このマリアの指のために買ってもいいかもしれない。
この作品では、「母代わりの姉」「自分を捨てた母」「人に裏切られた後輩」という構図が出来上がっています。
それらが主人公を取り巻き、人を信じることについて、読みながら考えさせられます。
同じような状況でも、少し違ったことがあるだけで、結果が大分違ってきてしまう、ということが表現されているのだと思います。
同時に進行する、同じようで違った事件。それらを見つめた主人公。
多少ミステリ要素も入ってますが、そこはあまり期待しないほうがいいかもしれません。
いつも通り、最後にはどんでん返しもあって、それも楽しめます。
乙一氏の多様な可能性を発見することができました。
「死にぞこないの青」 幻冬社文庫 ☆×8
長編。
これは構成がよくできています。
始めにある日常で、主人公に感情移入をさせられ、だんだんと落とされる。
まるで自分のことのように、恐怖させられる。
凄い作品です。だらだらした印象も受けませんでした。
読めば何かと考えさせられるはずです。
「石ノ目」 集英社 ☆×8
4話を収録している。それぞれの話は全く別物。
「石ノ目」……途中でヒントを小出しにしすぎたせいか、最後の騙しが無いです。
よくまとまっていて、高レベルの作品。インパクトに欠けた。
「はじめ」……これを原作にした漫画を読んだことがあるのですが、そちらの先入観が有っても十分楽しめました。
無ければさらに楽しめることでしょう。結局乙一の話のパターンとして、『想像が実体化する』というのは数多くあるので、
これもそれのひとつです。感情の動きがリアルで、読んでいて感心した。
自分が幻覚だと知っていても、現実との接点を捨てようとしないはじめのと、あたりまえのようにはじめと触れ合うが、
どこかではじめにいろいろな感情を向ける主人公の複雑な心中が上手く描かれていて、えげつない。が、それが読んでいて面白さの一つとなっている。
「BLUE」……途中までとある映画を彷彿とさせる内容で、正直パクリかと疑ってしまったが、そんなことはもちろん無かった。
子供の為に作られ、子供に尽くすのを唯一の生きがいとし、ある意味で純粋すぎたブルーが心苦しくなるような状況に置かれてもめげない、めげることのできない様子に
惹きこまれた。ただ展開は秀逸と呼べるほどでも無く、先の読めるものだった。
「平面犬」……主人公の腕に彫られた刺繍である「ポッキー」と主人公の対比、そしてそれに気づいて初めて親の心情を知る場面には
正直感動ではないが心を動かされた。というか乙一の訥々とした文章に、淡々とした雰囲気では感動するほどの盛り上がりは期待できない。
綺麗な話を書いてはいるが結局は乙一なのだと思った。
最後の気味のいいトリックが、いい味を出しています。そこはやっと乙一らしさというか、僕が乙一に期待するものを見せてくれた所。
それぞれの話はよく出来ているが、まとめて評価すると一冊で☆7というところ。それぞれに騙しが少なかった所為か、物語一つ一つの合間の読後感が悪かった。
だが、最後に平面犬が持ってこられているので、最終的には良い読後感を味わうことが出来た。そこを評価して星八
「暗いところで待ち合わせ」 幻冬社文庫 ☆×8
まず、その設定からして素晴らしいと思う。
目の見えない盲目の女性の住む家に、警察に追われる男が身を隠す。
女性の方は、偶然にも男がいることにしばらく気づかない。が、男の方は一方的に女性に気づき続けている。
作中の雰囲気が、そしてラストは特に、温かい。人の温もりというものを感じる。
この作者の作品であまりこういう作品を読んだことは無いので、新鮮だった。
ミステリ的な要素を含みつつも、それにより殺伐とした殺人の雰囲気すら生まれず、包み込まれているように感じた。
騙しが無い乙一作品もたまにはいいかなと思った。
「天帝妖狐」 集英社文庫 ☆×6
『A MASKED BALL』……設定は乙一らしいと感じた。誰もがネットの掲示板を想起するような、トイレの落書きを通じての会話。
でも、それがあまり活かされていないようにも感じる。伏線の張り方、展開の進め方から、ミステリとしても
そこそこの巧さだとは思ったが、結局トイレの落書きを外れてしまった。話の中心ではあったものの、特に大きな働きもみせず、ラストに
無理に使われただけだった。綺麗な終わり方なのかもしれないが、荒削りだと思った。
『天帝妖狐』……最後まであまりまとまりが感じられない。ホラーとして描かれていて、人間が次第に恐ろしくおぞましい化け物に成り変っていく様を描きつつ、
その人間が優しさと触れ合うことで、人間としての感情を最後まで保つという綺麗な部分もある。
怖さと綺麗さ。二つがマッチしているのはいい。特に言うことは無い。
ただ、ラストのあっけなさからして、拍子抜けしてしまった。まだ何かを感じさせるには遠い出来だと思った。
ホラーなら恐怖を与えなくてはね。
「夏と花火と私の死体」 集英社文庫 ☆×7
二作の短編を収録。
『夏と花火と私の死体』……主人公は、ある日仲の良い友人に殺されてしまう。友人の兄は、友人と2人で主人公の死体を
誰にも見つからないように隠そうとする……。
死体視点というのは、まあ新鮮ではあったけれど評判ほどではなかったように思う。文章は圧巻。これが本当に
高校生なのか。綺麗な描写に緊張感などの展開の作りのうまさ。
とにかくすきなのは、最後の小気味いいどんでん返し。ミステリ風味を加えたサスペンスがうまくかけている。
緊張がこちらに伝わってくる。機転の利いた行動にちょっと嬉しくなったり、はらはらしたりとのめりこんでしまいました。
最後が本当にうまく出来ていて、伏線の処理が鮮やか。
『優子』……雇われお手伝いの清音は、主人のおかしな行動に気づき、その真実を知ろうとする。亡くなった筈の
妻がいると主人が言った部屋には人形が……!?
読者の操り方(言い方が悪いけど、褒め言葉)が上手い。ちらちらと分かりやすいようでよく読まないと
分からない伏線を見え隠れさせ、読者の中でまず『どんでん返し』の内容を確信に近い形で推測させてしまう。
そしてその後さらにその想像されていた『どんでん返し』をさらにひっくり返す。これは、本当にうまい。
作者がこうまで上手いと嬉しくなってきます。
「ZOO1」 ☆×7
短編集なので短編ごとに。
『カザリとヨーコ』 絶望的な設定なのに、そこに一筋の希望が差し込んでいく展開は感情移入するための前置きとしてはとてもうまいです。ラストはわりとオーソドックスで、あまり意外性はなかったのだけど、内心と合わない妙な明るさの口調が、ちぐはぐで、感情移入はしたけれど、この主人公の奥底はわからないと感じさせられました。真ん中より、少しだけハッピーエンドよりの、よくできた短編。
『SEVEN ROOMS』 もとがホラーアンソロジー掲載のものだから、ホラーが根底にある。設定が映画じみていて先が読みにくくなっています。ただ、設定が良かっただけに、ラストにはすこしがっかりでした。短編で感情を揺さぶるのは難しい。
『そ・ふぁー』 やはり乙一は設定作りの天才だと思った。なんでこんな、面白くなりそうでオチも読めない、凄い設定が出てくるのか。独特の暗さがうまく設定とマッチしています。最後の一行がとんでもなく秀逸でした。
『陽だまりの詩』 タイトルがいいですね。オチは読めていたのですが、全体に漂う温暖な、時間がゆっくりと進むような雰囲気はよかったです。
『ZOO』 本当に、主人公に付き合わされたなーというか、後ろから主人公の行動を渋々追っかけるような小説。トリックを用意して、それをオチに使うのではなく、最初にネタ明かしをもってきて、過程を段々と明かしていく。その手法はなかなか新鮮でしたが、あまり楽しめませんでした。悪い意味でキャラ小説というか、勝手に主人公が突っ走っていくのでついていくのが面倒といった感じ。
「ZOO2」 ☆×6
短編集なので短編ごとに。
『血液をさがせ!』 よくわからないコメディタッチな話。笑えないし何が面白いのかもわからない。
『冷たい森の白い家』 これだ、という形の乙一作品でした。このラストが良い。
『Closet』 途中のミスリードまでは面白かったんだけど結末が予想通り過ぎて肩透かし。何か予想外が用意されていると思ったんだけどな……。
『神の言葉』 オチの見せ方に無理を感じた。不必要に長い日常が使い切れなかった印象。
『落ちる飛行機の中で』 設定から楽しみにして読んだのですが値切りとかセールスとか幽霊とかのくだりがまったくくだらなく思えて駄目でした。なんなんだろうこれ。
『むかし夕日の公園で』 短いけど人によってはこういうのがいいのかもしれない。奇妙な読後感。短すぎてなんとも思わなかったけれど。
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