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JDCシリーズ
「コズミック」   世紀末探偵神話   講談社ノベルス    ☆×8


コズミックの著者、清涼院流水氏は、自分の書く小説のジャンルを、「流水大説」としています。
これは、本格、などの枠組みから大きくはずれた、エンターテイメント性を追求したものだと僕は考えます。
……ご本人は「世界を考える(哲学する)小説」を「大説」だとおっしゃっているわけですが。
それはともかく、この「コズミック」ですが、本格ミステリ好きが読むと、あまり好きにはなれないかもしれません。
初めから、「どうやっても不可能な犯罪」という印象を与えて、終いには宇宙でも殺人が…。
確かに、解決には納得できないこともありません。
しかし、大半の人はそれは反則だと捉えるでしょう。そんな作品です。 ここまで書いてきて、本格ミステリ嗜好派の方にはお勧めしないかというと、そうでもありません。
ミステリ作品としての「コズミック」ではなく、エンターテイメント作品、流水大説の世界に触れる機会としてもコズミックはおすすめです。
作品内にことあるごとに登場する言葉遊びやアナグラム。それらを探して楽しむこともできます。
登場人物名1つとっても、よく考えてみると、著者の意図が見えてきたりするのです。
最後になりましたが、登場人物の特性、個性といったものも、この本の魅力となっています。
非常にお勧めの1冊です。…厚すぎるのが玉に傷なのですが、それを差し置いても読む価値はあります。




「ジョーカー」   旧約世界探偵神話   講談社ノベルス    ☆×3



 人気のない土地に佇む、神秘の城『幻影城』。
 次々と、まるで探偵たちをあざ笑うかのようにおきる殺人事件。
 「決して解けない謎」とは――?


 ――厚い厚い。
 本音を。包み隠さず本音を言うのなら、冒頭で登場人物を知ったらもう解決篇読んでもいい位です。 中盤は冗長すぎるし、明らかに無駄な描写が多い。
 確かに解決篇は、どんでん返しの連続で驚きもありますし、構成の緻密さ、手の込み具合などには 感嘆せざるをえません。こじつけくさい言葉遊びから、意図的な符合、 ミスディレクション偽の手掛かり の多さには作者の手のいれようが伺えます。 読者に、これで完全に解決したと思わせた後のさらなる解決遍。いたるところに忍ばせた伏線に、構成の複雑さ。 最後はかなり楽しめました。 
 しかししかししかし、それにしても、中盤が退屈すぎるのです。あまりにも、読ませる力がない。 我慢して苛苛としながらも最後まで読めば、ほとんどのシーンに意味があったと悟るでしょう。 確かに、意味はあります。しかし、それでもそれらをわざわざ一冊に詰め込まなくても。 事件の多さ、複雑さからいかにこの事件が犯罪史上恐ろしい事件なのかを現したい(それはまた九十九十九の凄さも現す)のでしょうが、 その描写も多すぎます。同じことを繰り返し描きすぎているし、あまりにもしつこい。
 ……もし、要らないシーンを徹底的に省き、無駄のないスマートな作品にしたら、素晴らしい完成度の作品になるのではないかと思います。
 ……流水御大はそれを望まないでしょうが。
 
 ☆3というのは、『おすすめできない』ということであって、面白くないというわけではありません。 確かに中盤は退屈以外の何者でもありませんが、解決遍――特に九十九十九登場以降はかなり楽しめると思います。 ただ、何度も言うように、中盤――冗長な展開が400ページほど――にも我慢して読める人がそうはいないだろうということで、 ☆3にしました。
 
 最後に、あまり推理小説を読むほうではないのですが、謎を残したまま終わる事件がこうまで後味が悪いとは思いませんでした。




「トップラン」シリーズ   幻冬舎文庫



1巻(第1話) ここが最前線    ☆×4

1冊が200ページ程で、読みやすい。
舞台は2000年。多少の懐かしさを覚えながら読みました。
要所要所にその年の大きな事件、ヒットした曲など、記憶に新しい実際の出来事が記されています。
しかし、あまりにも何度も繰り返して書かれているので、少々退屈するのはしょうがないともいえます。
展開も遅く、流水氏の作品としては退屈させられました。





2巻(第2話) 恋人は誘拐犯    ☆×5

言葉遊びや文章遊びはいいのですが、肝心の本筋の方が遅々として進まず、苛立ちを覚えます。
だいたい1冊(1話)で1回話が大きな転機を迎えます。
刊行の性質上仕様が無いことなのですが、退屈感はどうすればいいのかと。
話が大きな展開を見せる場面は、さすが流水氏。巧く見せてくれ、先が気になってしまいます。
期待感を募らせるだけ募らせて、それを裏切られないのはさすが流水大説といったところでしょうか。





3巻(第3話) 身代金ローン    ☆×6

話は大きく展開する一歩手前。
その前の小休憩、一区切り。
それでも文章などは「巧い」ので1,2巻よりは退屈させられません。
ここまでくると、秒刻みで話は進むし、いやでも全体がなんとなくみえてきます。
4巻への助走となりそうな予感がある3巻ですが、かなり楽しめました。
コズミックなどとはまた1味違った流水大説を味わうことができました。





4巻(第4話) クイズ大逆転    ☆×7

今までで1番内容の濃い巻です。
展開としては、やはり秘密は最終巻まで引っ張りましたが、面白いです。
最終巻へ期待も膨らませながら、盛り上がりを楽しめます。
凝縮されているので、今までで1番楽しめました。
この勢いで突っ走ってくれると、読みやすくて助かるのですが……。





5巻(第5話) 最終話に専念    ☆×7

巻数を増すごとに、展開が加速していって、読みやすさも次第に上がっています。
2000年の大きな出来事などが逐一書かれているので、懐かしみを覚えました。
それにより、話の現実感と緊迫感が増しています。
ただ、ニュースなんて見ていなかった場合は話と関わってくるニュース以外は邪魔に思えます。
最後に明かされる秘密への期待を高めさせた5巻。
最終話への前置きとしては良かったです。





6巻(最終話)  大航海をラン    ☆×8

なるほど、と。 意外な結末は、今までの勢いを殺さず上手く持っていけています。
オランダについての説明があるのですが、多すぎる気がします。
確かにオランダについての情報を知ることにより、親近感が沸くので物語へは入りやすいのですが、くどすぎました。
結末としては、無難といったところでしょう。そこまで予想不可能な急展開でもなく。可もなく不可もなく。
文字数調整による文章揃えや、発音から別の単語を連想するなど、ギャグのような遊びが多々入っていて楽しめました。
物語外でのトリックなどもあり、充実した内容です。
日本語や英語など、言葉を巧みに弄った文ショウは必読です。





トップランド2001  天使エピソード1    ☆×7

先を読ませない展開は凄い。
想像もつかない展開に、胸が躍ります。

ちなみに、この小説内では、タイトルにある「2001」の通り、2001年の大きな出来事を追憶しています。
そのころニュースを見ていた人は、不思議な感覚を味わえるかと思います。
自分が生きていた、懐かしい時間に、小説のキャラが実際に存在していたかのような錯覚を。
感情移入もしやすく、のめりこんで読めます。





トップランド2002  戦士エピソード1    ☆×6

2002年といえば、大きな出来事が集中しているので懐かしさ倍増です。
この巻で完結しています。本当に。
まあやってくれました。最後まで謎を残されるとけっこう気になるんですが、そういうことも無く、すんなりと受け入れられましたし。
あとがきでは「文ショウ」についての解説も。





トップランド1980  紳士エピソード1    ☆×5

これ1冊でまだ序章のようです。一応時代背景と主人公の設定の説明に終わっています。
先を読みたくなる展開は相変わらずさすがなのですが、盛り上がりに欠けたかなと思います。
この巻を読むことで続刊のおもしろさが引き出されれば言うこと無しです。





トップラン&ラン完               ☆×8

 前半部のこれまでの説明は、正直くどすぎます。ページ稼ぎに思えました。
 こう何回も同じことを説明されると改行の多い文ショウまでもがただのページ稼ぎに見えてしまいました。
 別に読み飛ばせばいいんですが。僕はそういうの耐えられない性質なので。

 ただ、後半は凄いです。ただただ圧巻。
 1巻の時からここまでの構想を練ってあったのだとしたら構成力は素晴らしすぎますね。
 トップラン、トップランドシリーズの全てを解明し、完結する。
 後半部は展開に文句なしです。ラスト以外は。
 ラストは、ちょっとこじつけくさいですね。
 あっさりというか、もう少し語られても良かったかなと。どうせなら前半なくして最後をもっと書いて欲しかった。
 やっぱり作者が勝手に納得してる感があるので、読後感は良くなかったです。





「Wドライヴ  院」   講談社文庫    ☆×8


「19ボックス 新ミステリ創世記」の文庫版。
文庫版といっても内容はかなり別物に仕上がっているとの事。
2作が収録されており、どちらから読むかによって読後感が変わるという仕組み。
僕は正統派のコースを選んでみたが、確かに読後感は変わるだろうと納得。
退屈させられずに、言葉遊びや展開の面白さなど、いろいろなところで魅せてくれるので休まずに読めます。
題名からサブタイトルまで、所々に細かい仕掛けが組まれていて、娯楽性については非常に充実しています。
さらに、他作品とのリンクが所々に見られ、それを発見することによってささやかな喜びを味わえたり。
言葉に二重の意味を持たせる技術には驚嘆しました。
文章遊び(文ショウ)もかなりあり、あらゆる意味で退屈を覚えさせない一冊です。
ただし、他の流水大説とは感じが異なるので注意が必要です。




「秘密屋」 赤・白   講談社ノベルス    ☆×4


赤の方は、物語の語り始めなので、説明的なので、あまり面白いとはいえません。
白は、文章遊びが凝っていて、さらに2ページ毎に場面が切り替わるという独特の手法も上手く活かされています。
ただ、終始何が言いたいのか伝わらす、作者だけで自己完結してしまった感が否めない作品です。
他作品とのリンクや文章などでも楽しめることには楽しめるのですが、物足りない印象。
記念的作品なのでこれでいいのかもしれませんが…。
「読んで楽しむ」というより「読んで驚く」といった気構えで読んだ方が良いような。




「とくまでやる」   徳間デュアル文庫    ☆×5


「徳間デュアル」文庫、「解くまでやる」さらに流水氏が初めて「徳間でやる(書く)」という三重の意味を持ったタイトルからして、言葉遊び等の要素が強い作品。
2ページで1日が経過するという形式なので、テンポよく読めます。
オチは、いつもの流水で、反則的な解決となっています。
納得はできませんが、思わず頷いてしまう終わりでした。
オチはともかく、流水氏にしてはなかなかいい話的に締めています。
ただ、驚きの要素が少ないので、印象が弱いです。
その分、物足りなさのようなものも感じますが、満足の1冊ともいえます。
人によって受け取り方が天と地ぐらい違うであろう作品。




「とくまつ」   徳間デュアル文庫    ☆×6



 タイトル。こういう遊び的なものは凄い好きなので気に入りました。候補に有った『とくまでやるのに』 の方が好きな感じだったりする。

 それはともかく、とくまでやると同じく、見開きで視点が切り替わっていく面白い形式。
 視点が切り替わることによって、読者だけが状況を把握することが出来、状況を捉えやすい。
 欠点としては、せっかくの盛り上がりのシーンも、視点を変えて何度も読まされるのでいまいちのっていけない事。 それは終盤で特に思った。話の盛り上がりにつれて読むスピードが上がっていき、ぐんぐん読めるというわけにはいかない。 一回見開きで切られてしまうから。

 終盤まで引っ張り続け、かなり期待した武器の真相もたいしたことも無く、ほとんどの読者が予想したとおりだったと思う。
 流水御大の魅力は、『何をしでかすかわからない』所だと思っているので、読者に予想されてしまうような 展開を持ってきたのにはガッカリだった。正直反則でもなんでもいいから驚かせてほしい。いい意味でも悪い意味でも 無難に走っては欲しくない。
 
 しかも話は終わらなかった。ラストに意外な真相をもってきたあたりはやっぱり流水だと思った。
 それにしても、やっぱりこの見開き形式だと展開が遅い。
 
 ラストからして、次巻は(出るとしたら)楽しめそうだ。



「みすてりあるキャラねっと」    角川スニーカー文庫    ☆×3


これは、主人公がオンラインゲームの中で事件に遭遇し、解決していくというもの。
文字が横文字というのはゲームらしさを出す工夫なのでしょうが、たいした効果は見受けられず、少し慣れるまで読みにくくなっただけ、といった印象を受けました。
ミステリとして読むのには全くお勧めできない。ミステリとしては陳腐といって差し支えない。
ただ、新しい世界観に、独特の設定を楽しむために、軽く読んだ方がいいかと思います。




「キャラねっと」    角川書店    ☆×4


上にある、「みすてりあるキャラねっと」も含む、「めいきゃっぴキャラねっと」「であいまちょキャラねっと」の3つの話を収録。
どうしても横文字で読みたいのでなければ、こっちを買ったほうがいいです。

オンラインゲームという設定は面白いと思いました。現実と、ゲームで平行して事件を詰めていくのには、唸らされました。
文章は軽い感じで、若者言葉が存分に盛り込まれています。
ただ、それを読みやすいと感じるか、不快と取るかは読者次第です。
恋愛についての物語に、ゲームの中での事件を絡めた話なので、ミステリも恋愛話も読めます。
ライトノベルのミステリなので、本格のような詰めを期待すると拍子抜けするかもしれません。
ただ、展開が読めるところがあるので、展開の意外さやトリックはたいしたこと無いです。




「ユウ 日本国民全員参加TV新企画」   幻冬舎   ☆×6


日本国民を全員参加させようって言う視聴者参加型TV番組の話。
緻密に設計された設定や、細かいところまで考えられた構成は良いです。
この本には普通の読み方と、もう1種の読み方があります。
その読み方をすることにより、全体→表完結→裏完結 というように、表舞台でのトリックを知り、納得したところにさらに裏としてのトリックを知らされる、二重の抗争として楽しめます。
1冊の本から、含意を深く読み取って作者の意図を予想したり当てたりするのが好きな方にはお勧めできます。
しかし、このトリック。そこまで効果は出ていないようにも思えます。
何回も読み返して、いくつかの読み方をすれば、自ずと裏の真相は見えてくるらしいのですが、そこまでする読者はあまりいないのではないかと思います。
1回だけ読むという方は、この本の魅力を存分には味わえないかもしれませんのでご注意ください。




「19ボックス 新みすてり創世記」   講談社ノベルス   ☆×7


受け入れる人はかなり好きになるが、受け付けない人は絶対に好きになれない。早い話が好みが分かれる作品。

四つの短編・中編が収録されていて、それをどのような順番で読むかは完全に読者に委ねられていて、その順によって違った読後感や、作者の企みが見えてくるという本です。
さすがに全通りの読み方をすることはしませんでしたが、ある程度予想はつきます。
時系列どおりに読めば、いくつかの違った物語の関連性を知りつつ読み進める事ができます。
その他の順だと、結末を知ったうえで物語を読み、前の物語との意外な関連性に驚かされたり、仕掛けに凝っています。
1冊の本を何度も読み返す方ならかなり楽しめると思います。もちろん1回目でも。

言葉遊びや文章遊びはあまりありません。しかし言ってしまえば構成遊びとでもいうことをやっているのだから凄いものです。
それぞれの話にも、それぞれ読み方や楽しみ方があります。
さらに所々に作者のなかがきやメッセージがあり、それらも物語と関連してきます。

読んで楽しむ、という観点にかなり重点を置いているので軽い気持ちで読んでみようという方にもお勧めです。





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