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「フリッカー式  鏡公彦にうってつけの殺人」   ☆×9   講談社ノベルス


 
 第21回メフィスト賞受賞作。
 
 ある日、主人公の妹が自殺する。同時に、悩む幼馴染の少女が抱える問題とも交錯するその事件は……。
 
 そんなお話。
 

 いかにも、今の中高生が好き好みそうな話だと思う(我ながら大人ぶったこと言っている)
 救いがなくて、壊れてて、拒んでいて、それでも繋がってる。
 狂ってるし、皆自分勝手すぎるけど、交錯する。交わる。
 単純な思考をしている(と自分では思っている)僕としては、ラストの、圧倒的な解決篇が1番好きだけど、全体通しての勢いも見逃せない。
 話のつなぎ方が上手いと言うか、退屈なんてさせない。
 勢い任せなのに、どこか計算ずく。
 文学小説というものがどういうものなのかなんてほとんど理解していない僕からすれば、ほぼライトノベル(まあ角川系列辺りから出せる小説ではないけれど)に思えた。
 



「エナメルを塗った魂の比重  鏡稜子ときせかえ密室」   ☆×9   講談社ノベルス


 コスプレを通じて自己変革する少女。
 ぐちゃぐちゃにいじめられる少女。
 人間しか食べられない少女。
 ドッペルゲンガーに襲われた少女。
 その謎を追う男。
 預言者たち。 
 

 全ての登場人物が、目的をもって行動していて、全ての登場人物は、シナリオ通りに動いていて、全ての登場人物は、 最後に交錯する。
 物語の組み合わせと、交わらせ方が巧い。面白い。
 伏線と、その明かし方もいいと思う。読むごとに『あ、なるほど。じゃああれは……』と思わされる。
 展開の転がり方と収束。いい感じです。
 展開と展開と展開の絡み。真相が凄い。どこかしら何かと関連していて、どうでもいいことから重要なことまで くっついている。凄い。この無駄のなさ。持て余すことなくきっちりはまったピースのような物語が、凄い僕の 好きな感じ。電撃文庫のバッカーノのようでバッカーノとは似ても似つかない。そんな印象。
 すっごい、好きです。
   

「水没ピアノ  鏡創士がひきもどす犯罪」   ☆×7   講談社ノベルス


 暗澹たる日々に埋もれた無様な青年。
 悪意から逃れられない少女を護り続ける少年。
 密室情況の中繰り広げられる、贖罪を含んだ惨殺撃。
 

 こういう繋がり方は、予想できた。途中で読めた。だけど、よかった。
 騙しと、きっちりはまっていく物語のピース。やっぱりこのシリーズは解決篇が面白い。
 こんな構成で、綺麗にまとまる物語をどうやって考えているのか。そう作者に問いたい。
 ただ、半ばであらかた予想がついたのと、予想がついてしまった読者には少々厳しい長さ。それが減点要因。
 文章に突っ込んだ意見はできないけれど、言うなれば、引き込まれる文章。惹きこまれる。そんな文章でこんな素敵な構成の物語 書かれたらもうお手上げですよ。


「クリスマス・テロル」   ☆×6   講談社ノベルス



 日常からの逃避。その先に待つは島。
 過疎の進んだ島で、冬子は何かを見る。
 そして、何かが、起きる。
 

 思いっきりいいかげんな粗筋で申し訳ないです。苦手なんです、粗筋書くの。

 フリッカー、エナメル、ピアノ、と、壊れた人ばかりが登場してきましたが、今回も御多分に漏れず、そんな人ばかり。
 ただ、どうも作者自身の投影の様なものを感じてしまうのはあんな終章(あとがき)があった所為でしょう。
 終章(あとがき)で、作者がこれまでの作品が売れなかった所為でシリーズは休止とかなんとか言ってます。
 今現在、これ書いてる今にはもうシリーズ再開して、「鏡姉妹の飛ぶ教室」が出版されているので、リアルタイムな事情がよく把握できなくて残念です。
 どうもこれのあと、売れに売れたらしく、それまでは相当に売れなかったようです。

 なんか、意外。驚愕です。
 僕は、今までこの人は一般受けしてる人気作家だと思っていたんですが、そうではなかったようです。
 『重版童貞』の名で呼ばれるほどに売れず、そしてシリーズ休止。しかし急に売れ出し、シリーズ再開。
 まあ知った時には本当に驚きました。当たり前のように発表当時から売れている作品だと思っていたので。

 まあそれはともかく、そんな時期に書かれた所為か、どうもしっくりこない作品です。
 まだ冷静になっていない。思が溢れている時に書かれた、そんなきがしてしょうがない。
 話に無理があるし、結局何がなんだか。
 しっくりこないという表現がしっくりくる。
 
 それにしても、未だにこの人が人気無かったなんて信じられない思いです。
 まあ、ミステリだと思って読んだ人が多かったからというのもあるのでしょうが。


「鏡姉妹の飛ぶ教室」   ☆×8   講談社ノベルス



 震災により、学校に閉じ込められた。
 それぞれがそれぞれの思考をもち、群れ、離れ、目的を遂行する。
 
 ある者は『捕獲』 
 ある者は『殺害』
 ある者は『仇討』
 ある者は『脱出』
 ある者は『逃避』

 果たして地中に埋まった校舎から脱出することはできるのか。
 という話。


 ……まぁ、言ってしまえば『一般向け』。
 最後の収束も無ければ収斂も無し。
 僕がこのシリーズに求めているものだけが無い感じです。

 Webでの連載を本にしたものなので、インタビューによれば、行き当たりばったりな書き方をしたとの事。
 あの、計算ずくの、計算し尽くされた展開が無いわけだ。でも、評価は8になっている謎。
 小説を読んでから、まず感想を言おうとする時1番影響するのはやっぱりラスト。そう思う。 読後感というものはその作品への評価を大きく変化させるどころかそこだけで評価を決められかねない。 感動のラストの話なら、『泣ける話』。最後のオチが滑稽なら、『笑える話』。 最初の方が悪くても、最後がよければ最初も良く見える。特に気にならない。全体のバランスより最後の走り方。それが僕の考え方であるのですが、 この佐藤友哉という作家の作品はその色合いが濃く、序盤から中盤にかけては読ませる力が弱く、展開も弱い。 陰鬱で醒めた雰囲気のだらだらした日常又は感情の吐露を読むだけでは全く面白くない。だが、やはりこのシリーズ最大の魅力であるところの 終盤。ぐちゃぐちゃで、入り乱れての総決算。全ての清算が全てを解決する。謎の解凍。ロックの解除。 それは読んでいて、爽快感も感じれば愉悦も感じる。ただとにかく面白い。序盤と中盤をしっかり読んでこその楽しみ。
 しかし、今作はそうでない。
 視点が変わるのはいつもの通りだが、最後まで正統派。普通の展開。伏線の、展開の、符合と一致も無ければ解き明かしも無い。
 ただそれでも、

 最後の一行が凄い。

 色々な予想をさせておいて、結局それかよと言いたいが、それでもびっくりしたのは本当。
 最後の一行だけで、読後感を作って、良くして、バランスをとったというのはずるい話だけど、そういうことなのだから 仕様がないと言うしかない……んじゃないでしょうか。
 
 とりあえず、終わりよければ全てよしの精神で、最後の一行に期待して読むことをお勧めします。

 

 





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